「仕事は、それなりに順調です」
「周囲から見れば、恵まれている方だと思います」
「特別な不満があるわけでもありません。それなのに、なぜか心が満たされないんです」
40代に入ってから、こうした感覚を抱くようになったという相談を、私はよく受けます。
夜、ひとりになったとき。休日の夕方。あるいは、大きな仕事を無事に終えた直後。
ふとした瞬間に、「このままでいいのかな?」という言葉が頭に浮かぶ。
新しいことを始めたい気持ちはあるけれど、今さら大きく変えるのも怖い。
だから答えが出ないまま、毎日だけが過ぎていく――。
この感覚を、「贅沢な悩みだ」「自分はわがままなのではないか」と片づけてしまう人もいます。
しかし、私はそうは考えていません。
その違和感は、人生が間違っていることを知らせる警報ではなく、次の人生を考え始める時期が来たことを知らせるサインかもしれないからです。
「不満がない」と「満たされている」は同じではない
まず押さえておきたいのは、「不満がないこと」と「心が満たされていること」は、必ずしも同じではないということです。
仕事が安定している。生活にも大きな問題はない。家族にも恵まれている。周囲からの評価も得ている。
外側から見れば、十分にうまくいっているように見えるでしょう。
ところが、人の心は「問題がない」という理由だけで満たされるわけではありません。
自分が大切にしたいことを大切にできているか。
自分の時間を、自分が納得できることに使えているか。
今の生き方に、自分なりの意味を感じられているか。
こうした内側の納得感が薄れてくると、どれだけ予定が埋まっていても、どれだけ成果を出していても、どこかに空白が残ります。
つまり、「うまくいっていないから苦しい」のではありません。
これまで自分を動かしてきた基準だけでは、心が動かなくなってきているのです。
20代・30代の「獲得」から、40代以降の「統合」へ
もちろん個人差はありますが、コーチングの現場で多くの方と向き合っていると、20代・30代と40代以降では、人生に求めるものが少しずつ変わっていくことを感じます。
若い頃は、
「仕事で成果を出したい」
「周囲から認められたい」
「収入を増やしたい」
「自分の居場所をつくりたい」
といった思いが、大きな原動力になります。
知識や能力、経験、人脈、収入、立場などを手に入れていく。言うなれば、「獲得」の時期です。
この時期に努力することは、決して悪いことではありません。
むしろ、そこで積み重ねた経験が、その後の人生の土台になります。
ところが、ある程度のものを手に入れた頃から、自分のなかで次の問いが生まれます。
「で、自分は何のために、これを続けているのだろう?」
成果を出すこと自体ではなく、その成果を何につなげたいのか。どんな人として生きたいのか。これまでの仕事、家族、経験、価値観を、どのように自分の人生として結び直していくのか。
人生のテーマが、「何を手に入れるか」から「自分はどう在りたいか」へと移っていくのです。
私はこれを、「獲得」から「統合」への移行だと捉えています。
違和感の正体は、「今の生き方」と「本音」のズレ
では、なぜ外側は順調なのに、内側では満たされなくなるのでしょうか。
その理由の一つは、これまでの人生で、自分の本音を後回しにしてきたからです。
私たちは、さまざまな役割を担っています。
会社では、期待に応える社員や経営者であろうとする。家庭では、良い親や良いパートナーであろうとする。社会の中では、常識的で信頼される人であろうとする。
そうやって責任を果たし続けているうちに、
「自分は、本当はどうしたいのか」
「どんな時間を心地よいと感じるのか」
「何をしているときに、自分らしくいられるのか」
という問いが、後回しになってしまいます。
これまでの選択が間違っていたわけではありません。
その時々で、必要なことを一生懸命に選んできたはずです。
ただ、かつて自分に合っていた選択基準が、今の自分には合わなくなっていることがあります。
「正しい選択」はしている。けれど、「納得できる選択」になっていない。
その小さなズレが積み重なったとき、「特に不満はない。でも、なぜか満たされない」という感覚になって現れるのです。
違和感があっても、いきなり人生を変えなくていい
ここで大切なのは、違和感を覚えたからといって、すぐに大きな決断をしないことです。
転職する。独立する。移住する。長く続けてきたものを手放す。
もちろん、それが必要な場合もあります。
しかし、まだ自分の本音が見えていない段階で環境だけを大きく変えても、しばらくすると同じ違和感が生まれる可能性があります。
焦って答えを出すよりも、まずは今の感覚を言葉にすること。
「何が嫌なのか」だけではなく、「自分は何を求めているのか」まで丁寧に見つめること。
人生を変えるための最初の一歩は、大きな行動ではありません。自分の内側で起きていることを、きちんと理解することなのです。
手帳やノートに書き出したい「4つの問い」
そこで活用してほしいのが、手帳やノートです。
頭の中だけで考えていると、「何となく不安」「何となくモヤモヤする」という状態から抜け出しにくくなります。
しかし、言葉にして書き出すと、輪郭のなかった感情が少しずつ見えるようになります。
次の4つについて、具体的な出来事とともに書いてみてください。
1.最近、モヤっとしたことは何か?
モヤモヤは、単なる不満ではありません。
誰かの言葉に引っかかった。予定が詰まっていることに疲れた。以前は平気だった仕事が、急に重く感じられた。
その背景には、「本当はこうしたい」「これは大切にしたい」という、自分なりの価値観が隠れています。
2.最近、心が動いた瞬間はいつか?
嬉しかったこと、感動したこと、思わず夢中になったこと、ほっとした時間。
大げさな出来事でなくて構いません。
心が動いた瞬間には、今の自分が求めているものが表れます。「なぜ心が動いたのか」まで書くと、より深く自分を理解できます。
3.羨ましいと思った人は誰か?
羨ましさは、できれば感じたくない感情かもしれません。
しかし、その人の何を羨ましいと思ったのかを丁寧に見ていくと、自分が望んでいる生き方が見えてきます。
自由な働き方なのか。家族との時間なのか。好きなことに没頭する姿なのか。自分の考えを発信していることなのか。
羨ましさは、自分の本音を映す鏡でもあるのです。
4.本当は、何をやってみたいのか?
ここでは、「できるかどうか」「役に立つかどうか」「今さら遅くないか」といった判断を、いったん脇に置いてください。
すぐに仕事にする必要も、大きな目標にする必要もありません。
学んでみたい。行ってみたい。会ってみたい。もう一度やってみたい。
そうした小さな願いの中に、次の人生につながる種が眠っています。
「何をするか」より先に、「どう在りたいか」を考える
40代以降の人生を考えるとき、すぐに「次は何をするか」を決めようとしなくても大丈夫です。
それより先に考えたいのは、
「自分は、どんな状態で生きたいのか」
「これから、何を大切にしたいのか」
「どんな人生を積み上げていきたいのか」
ということです。
方向性が見えてくると、必要な行動も少しずつ分かってきます。
誰かに話を聞きに行く。興味のあることを体験する。週に1時間だけ、自分のための予定を入れる。手帳に感じたことを書き続ける。
人生を一気に変える必要はありません。
小さく試しながら、「これは自分に合っている」「これは少し違う」と確かめていけばいいのです。
答えは、一度で完成させるものではありません。今の自分なりの仮説を持ち、経験を重ねながら更新していくものです。
まとめ|その違和感は、人生後半戦の入口かもしれない
仕事は順調。生活にも大きな不満はない。それなのに、なぜか満たされない。
その感覚は、これまでの人生を否定するものではありません。
むしろ、これまできちんと頑張り、一定の場所まで歩いてきたからこそ、次は「自分にとって納得できる人生とは何か」を考える段階に入ったのだと思います。
「このままでいいのか?」という問いは、失敗を知らせるサインではなく、次の人生を考え始めたサインなのかもしれません。
その不安を、無理に消そうとしないでください。
大事なのは、
「この不安は、自分に何を伝えようとしているのだろう?」
と問いかけることです。
ちゃんと生きてきたはずなのに、なぜか満たされない。
――それは、人生後半戦を自分らしく生きるための入口なのかもしれません。